京都地方裁判所 昭和43年(レ)116号 判決 1969年1月11日
控訴人
中田五三郎
代理人
名倉宗一
被控訴人
中田順四郎
主文
本件控訴を却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「京都簡易裁判所昭和四三年(ハ)第三六五号所有権移転登記抹消登記手続請求事件につき、控訴人が昭和四三年一一月二二日なした訴訟の取下は無効であることを確認する。控訴費用は被控訴人の負担とする」との判決を求め、その理由は、
「一、控訴人は、右所有権移転登記抹消登記手続請求事件において、昭和四三年一一月二〇日、その請求が全部認容されて、控訴人勝訴の判決言渡を受け、判決正本は、同月二二日、当事者双方へ送達された。
二、然るところ、被控訴人は、控訴人の印鑑を盗用し、被控訴人の同意ある控訴人名義の訴訟取下書を作成して、同月二二日、京都簡易裁判所へ提出した。
三、右取下は、控訴人の全く知らない間になされたもので無効であるから、その確認を求めて控訴に及んだ。
なお、控訴期間については、控訴人は昭和四三年一二月一〇日、取下の事実を確認したので、民事訴訟法第一五九条により控訴をなすものである」
というにある。
理由
本件のように、第一審終局判決後になされた訴の取下の有効無効についての争があるときの解決方法については、つぎの見解がある。
(1) 上訴によつて上級審でこれを主張すべきである、とする見解。
(2) 第一審裁判所が、その訴訟で訴の取下の有効無効のみを判断すればよい、とする見解。
(3) 本件のように、第一審終局判決(給付判決)において請求を全部認容された原告が、第一審終局判決後の訴の取下の無効を主張する場合、原告は、執行文の与付を求め、その付与拒絶に対し異議申立をすべきである、とする見解。
(4)、(3)の場合、原告は、訴の取下の無効確認の別訴を提起すべきである、とする見解。
控訴人の本件控訴は(1)の見解に基いている。
そこで、以下において、本件の場合における(1)の見解の当否についてのみ判断する。
第一審終局判決において原告の請求が全部認容された場合、訴の変更によらなければ別訴ではその請求をすることができなくなる場合を除き、原告は控訴の利益がなく、第一審終局判決後の訴の取下の効力の判断を控訴審において受けることを理由に、原告に控訴の利益を認めることはできない、と解するのが相当である。
本件第一審終局判決において控訴人の請求が全部認容されたことおよび本件控訴が上記例外の場合に該当しないものであることは、本件記録により明かである。
したがつて、控訴人は控訴の利益がなく、本件控訴は却下を免れない。
(本件と異なり、第一審終局判決において原告の請求が棄却された場合は、原告は、当然、控訴を提起し、控訴審において、終局判決後の訴の取下の無効を主張することができる)
よつて、民事訴訟法第三八三条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。(小西勝 杉島広利 寒竹剛)